わきがの原因

原因を正しく理解しよう

諸説渦巻くワキガ理論

さて、ワキガの発生源は、腋窩(えきか)や陰部など、主にアポクリン腺の存在部位であることはわかりました。では、ワキガのあの特有のニオイは、はたして、どのようにして起こるのでしょうか。
ここ何十年にわたって、数多くの学者が研究を重ね、いろいろな説を発表してきました。


アポクリン腺の量できまるという説
ワキガの人もワキガでない人も、アポクリン腺からの分泌物に質的な差はないが、アポクリン腺の分泌量が増加した症状がワキガであるという説です。
アポクリン腺から出る汗の中には、各種の脂肪酸が含まれており、それがにおうと考えたわけです。
同じ説を唱えながら、放臭物をアンモニア、糖タンパク、アミノ酸などに求めている人もいます。
確かに、体臭の強い患者さんのアポクリン腺の量はそうでない患者さんの何十倍もあります。またひとつひとつのアポクリン腺も大きいのです。


アポクリン腺の質できまるという説
アポクリン汗には、鉄反応を示す物質が存在していることは知られていますが、この鉄反応物質に脂質が作用してニオイを出すのではないかという説もあります。実際に、強度のワキガの人では、通常のアポクリン腺の間に黒褐色の粒が散在することがあり、鉄分が含まれている可能性もあります。
また、分泌される脂肪酸の種類に特徴があるとする説もあります。例えばワキガ体質の人は、短鎖の3メチル2ヘキセノイン酸やカプリル酸、カプロン酸が多く、それらがタンパク質と結合してリポタンパクとして分泌され、これが皮膚表面の細菌により切り離されてワキガ特有のニオイになると考えられています。


皮脂腺の分泌物できまるという説
ワキの下の分泌物は、アポクリン腺からのものもさることながら、皮脂腺からの分泌物も多く、ワキガの人は、皮脂腺の活動が一段と活発なことが、すでに知られています。
そこで、皮脂腺からの分泌物が増大すると、皮膚表面のアルカリ度が増し、そのため細菌が繁殖しやすくなり、悪臭を発するようになる、という説です。


細菌がニオイの原因という説
1953年にシェリーが発表した学説で、現在、多くの学者・研究者が基盤としているものです。
アポクリン腺から分泌される汗は、分泌直後の新鮮な状態では無菌であり、ほとんどにおいません。それに細菌が作用すると、ほぼ2時間くらいのうちに悪臭を発するようになります。そこから唱えられた説です。
その後多くの学者が実験を重ね、ある程度真理をついていることが裏付けられています。この説が発表されるまでは、アポクリン汗そのものがにおうのか、それとも分泌された以降ににおうのかが間題でしたが、その意味では画期的な説といえます。特にワキガ体質の人のワキの下の常在細菌叢では、ジフテロイド菌などの特定の細菌が相対的に優位を占めているという説もあります。
現在、市販されているワキガ治療用のスプレー液や塗布薬などは、この説にのっとって、減菌効果のある抗生物質を含んでいます。


アポクリン汗に細菌と皮脂腺が作用してにおうという説
シェリーは、アポクリン汗が体外に排泄され、細菌の感染を受けて分解し、揮発性の脂肪酸、アンモニア、水酸化物が発生することによってにおう、といっていますが、その時採取したアポクリン汗は純粋なものだったのでしょうか。
毛穴、アポクリン腺、皮脂腺が三位一体となっている構造からみても、採取した汗には皮脂腺の分泌物も混入していたはずです。したがって、正確にいえば、皮脂腺の分泌物とアポクリン汗の混合物に細菌が作用して、初めてニオイが発生するという説だといえます。
この説をさらに発展させて、エクリン腺からの汗と混ざることによって、より細菌が繁殖しやすくなり、より広範囲にニオイが拡散するという説が出てきました。
現在、一般的に信頼されている学説は、この説で、アポクリン汗+エクリン汗+皮脂腺+細菌という図式です。



こうみてくると、アポクリン腺の分泌物を中心に、腋窩の有毛部の皮膚表面、および皮下の組織など、そこに存在するすべてが、ワキガの発生に関与しているといえるようです。

ワキガの手術をしていると、ニオイの強い人は、腋窩のアポクリン腺量が多く、皮脂腺も発達していて、毛も多いことに気づきます。そしてさらに、私の体験では、特に強いワキガ体質の人のアポクリン腺層は、脂肪層と明確な区別がなく、脂肪と混在していて、ややネバネバした感じがします。直視的にも、他の多くのワキガ患者と一見して異なっているケースが多くみられます。そのような場合には、アポクリン汗の性質も異なるのではないかと思われるほどです。そして時には、摘出すると同時に(まだ細菌感染する以前に)ニオイを発するアポクリン腺もあります。

今まで紹介した諸説には、アポクリン腺の進化論的研究が欠けており、それも見落としてはいけないような気がします。


五味常明 院長