体臭多汗の心理療法

生活や対人関係に支障をきたす不安への対処

自己臭妄想の治療法

私の経験上、多汗恐怖、特に手掌多汗症の患者さんのほとんどは軽症の心身症程度のもので、今まで述べてきた治療法で十分対応できるものです。

しかし、自己臭症の患者さんの中には、時に、重症の神経症や統合失調症(精神分裂病)に近い患者さんも含まれています。
このような重症の患者さんの自己臭恐怖は、むしろ「自己臭妄想」と呼ぶべきでしょう。

自己臭妄想の患者さんは、しばしば次のような訴えをします。

「自分の体臭が他人ににおっているのは事実だ。その証拠に、他人が『臭い』とか『出ていってくれ』とかいったり、自分が入っていくとみなが窓を開けたり、席を立ったりする」

このような訴えを分析すれば、患者さんが、実際ににおっているのではなく、他人が自分を忌避する行動をとるから、確実に自分はにおっているのだと確信しているにすぎないことが多いのです。

他人が席を立ったり、窓を開けたりといったことは、実際にしばしばあることです。第三者から見れば、偶然的なことで、患者さんにはまったく無関係な出来事にすぎないのですが、本人は決してそうは受け取らずに、自分と関係づけてしまうのです。精神医学ではこれを関係妄想と呼び、しばしば統合失調症の思考に出現する症状なのです。

統合失調症の患者さんは、往々にして自己臭妄想だけでなく、幻聴のような知覚の障害や、他の被害的・誇大的妄想などを訴えることもあり、診断の参考になります。
時に、ひそめ眉、とがり口、空笑いなどの表情や態度が出ることもあるので、それらにも注意しなければなりません。

このような、重症の神経症や統合失調症の患者さんの治療は当然、向精神薬の投与が最初に行う治療法となり、精神療法のみの対応では不十分なことが多いのです。
また時には、精神料の病院に入院した上での治療が必要となることもあります。

ここで、最も大切なことは、治療者側に、特に形成外科医に、最低、統合失調症か否かを判定できるだけの医学的知識があることです。統合失調症の患者さんに対し、患者側の訴えに従って安易に手術療法を行うことは絶対に避けるべきでしょう。

手術を行ったとしても、患者さんの自己臭妄想は決して解消されず、手術の繰り返しを招くことにもなり、時として、症状の悪化や発症の契機となる危険性もあるので、十分な注意が必要です。



五味常明 院長