体臭多汗の心理療法

生活や対人関係に支障をきたす不安への対処

系統的脱感作法

系統的脱感作法という治療法は、私の治療経験では、特に、手掌多汗症に顕著な効果が認められます。
この治療法は、ある刺激場面(ここでは手に汗をかいたような場面)で緊張反応を示すとき、この緊張反応とは相容れないような、逆にリラックスするような反応(具体的には、後述する自律訓練法という練習で得られた弛緩反応)が生起されると、患者さんの緊張反応は制止されるというものです。
簡単にいえば、訓練によって意図的に自分の自律神経をコントロールできる方法を身につけさせるというものです。

自律訓練法は、元来、自己催眠法から発展したもので、現在では様々な方法が開発されています。一般的には、病院でおおよその練習法を体得し、あとは自宅で朝夜の1日2回ほど行うことが多いようです。
具体的な方法は最後の五味式自律訓練簡便法をご覧下さい。
自律訓練法は、患者に体得の意志さえあれば誰でも技術を習得でき、治療への応用としてのみならず、日常生活でのストレス解消、心身の健康増進といった意味で、積極的に取り入れて良い方法だと思います。

さて、こうして自律訓練法によって弛緩反応が十分得られたなら、いよいよ系統的脱感作法に移るわけですが、その前に「不安階層表」といったものを作成します。これは、患者が過去に緊張反応(手に汗をかく状態)を示した刺激場面を、面接や心理テストなどで調ベ、その刺激度を小さい方から順に大きい方へと並べます。
つまり、過去に手掌に発汗した様々な場面を10場面選抜し、発汗の少ない方から多い方まで順次並ベるのです。

たとえば、

@自分の部屋で、一人でテレビを見ている。
A自分の部屋で、一人でゲームをしている。
B自分の家で、家族と話をしている。
C冬、戸外から暖かい教室に入っていく。
D梅雨時、ムシムシする電車の中にいる。
E試験中。
F会社の職場面接を受ける。
G日頃好意をもっている異性と話をする。
H会社でみんなの前で発表する。
I同僚から、手に汗をかいていることを指摘される。

以上のような不安階層表が作成されたなら、患者さんは緊張度の低い@の場画からそのイメージを思い浮かべます。そして、イメージすることによって、緊張反応(手に汗をかくこと)が生起できたなら、患者さんはただちに自律訓練法で体得した弛緩反応で、緊張反応を逆制止させます。
ひとつの場面に対して、逆制止によって緊張がなくなったなら、不安階層表に従って、次の場面における緊張を逆制止させていきます。このようにして、最後の緊張場面でも緊張がなくなるまで逆制止を行っていきます。

こうしたやり方を脱感作といい、系統的に順次行うため、この療法を系統的脱感作法といい、さらにこれらの療法をまとめて、行動療法と呼んでいます。

これらの行動療法は、自律訓練にせよ、脱感作にせよ、治療者と患者双方に時間と根気が必要ですが、この方法は精神安定剤などの薬物を使用せずにかなりの治療効果が得られるので、応用する価値があります。



五味式自律訓練簡便法

@就寝前に布団の上で行う。正座かあぐらをかき、全身の汚いものを出すような気持ちで息を吐き出す(呼気)。それから自然におなかに息を吸い込む(吸気)。
次に息を止める(保息)。呼気・吸気・保息は2対1対4の比率になるようにする。 最初は呼気8秒・吸気4秒・保息16秒で練習し、10秒・5秒・20秒、16秒・8秒・32秒と増やしていく。

A右鼻腔を右手親指でふさぎ、左鼻腔をあけ、息を出し、次に息を吸う。今度は左鼻腔を右手中指でふさぎ、右鼻腔をあけ、息を出し、次に吸う。このように左右の鼻腔から交互に呼吸する。

B1秒間に1〜2回のリズムで連続的に息を吐き出す。吸気は意識せず、空気が自然に吸入されるままにする。

C前述した3種類の呼吸法を最低10分程度行った後、室内を薄暗くして布団の上に横になる。目を閉じて、意識を足先→ふくらはぎ→膝→股関節→おしり→おなか→胸→首→アゴ→口→鼻→目→額→頭先→肩→肘→手首→手のひらと集中させ移動させる。これを2、3回繰り返す。

Dそのまま両手に神経を集中し「両手が重い」と心の中で5〜10回唱える。その後、「手がさっぱりしている」と暗示を唱える。目を開けて手足を屈伸させ体をリラックスさせる。

ECと同様に、再び足先から手のひらまで神経を集中させ、今度は「手のひらが温かい」と5〜10回唱え、その後に「手がさっぱりしている」と暗示を唱える。また体をリラックスさせる。

FCと同様に神経を集中させて足先から額にきたとき、「額が涼しい」と5〜10回唱える。暗示を繰り返し、体をリラックスさせる。
b GCを同様に繰り返し、最後に、「両手が涼しい」と5〜10回唱える。

※これが布団の上でできるようになれば、電車の中や学校、会社で席についているときでもできます。ぜひ試してみてください。


五味常明 院長