わきがの治療

手術するまでもない軽度〜中等度のワキガに対処

ボトックス治療

ボツリヌス毒素A(商品名ボトックス)を腋窩の皮下に注入する療法も、ワキガやワキの多汗に一時的に効果があります。自律訓練法はかなりの時間がかかりますので、もっと簡単に抑えたいというのであれば、この「ボトックス」の注射も選択肢のひとつです。

ボトックスが効くメカニズム
ボツリヌス毒素Aの多汗症への応用例については、私自身1999年のファッケル教授(ドイツのマンハイム大学病院)の報告で知り、非常に興味をもちました。
しかし、元来私は慎重な性格で、その「ボツリヌス毒素」という、さも恐ろしげな名前にしり込みしたものでした。様々な文献を取り寄せると、ボツリヌス毒素Aは、1977年に米国のスコットが、斜視に対して臨床応用し、しだいに眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頚などにも用いられるようになったことがわかりました。
そして、その作用機序は、ボツリヌス菌の神経毒の作用、つまり神経の末端に結合して、そこから分泌されるアセチルコリンの放出を阻害することで、筋肉の不随運動を抑制するものであることがわかりました。

ではなぜ発汗も減少させるのでしょうか。
実は交感神経の末端で発汗を促進させているのが、このアセチルコリンという伝達物質なのです。通常、交感神経末端から分泌されるのは、アドレナリンです。しかし汗腺に対しては、例外的に交感神経からアセチルコリンが分泌されるのです。
ですから、アセチルコリンを抑制するボツリヌス毒素を多汗症の治療に応用しようと考えるのは当然のことなのです。

ボトックスの腋窩多汗症への応用は、どの程度の量を注入すると、副作用を生じない範囲で、どの程度の減汗効果があるのか、という基本的な医学的検証がまだなされていない分野でしたので、私のクリニックでモニター期間を含め約2年間治験を行いました。結論を言いますと、ボトックスは私の想像以上の減汗効果がありました。

注射後約1週間後にお近くの方には検診に来ていただき、遠方の方には電話で経過報告をしていただいたのですが、7割くらいの人が「70%〜80%程度減少した」と返答しています。中には「ほとんどかかなくなった」と答えた人もいました。「幾分減ったかな?」という程度の人も中にはいて、人により効果に差が見られますが、全体的には「満足できる」方法と断定してもよいでしょう。
効果のある人は、注射の翌日から効き始めるようです。だいたい3日目くらいから効果が現れる人が多いようです。

ボトックスの精神性発汗への効果
効果の持続期間については、従来、3〜4カ月間くらいということでしたが、注射の部位の工夫で半年以上持続することもわかりました。理論的にはボトックスは半年くらいで交感神経末端からはずれて、体外に排泄されてしまいますので、その後は再び汗をかきはじめる「はず」です。

ところが、驚いたことに、この「はず」が来ない人がいたのです。
実際に、私のクリニックの統計では、半数近くの人が6カ月を過ぎても汗が減少しているか、以前よりあきらかに少ないままだったのです。つまり1回の注射で多汗症が「治癒」する可能性もあるのです。

これは、ボトックスによる汗の減少という実体験を通じて、「また汗をかくのではないか」と汗を予想する不安が、「注射をすればいつでも汗は抑えられるのだ」という自信に変わったからです。そのような自信が、汗以外の何か違う価値へ意識を向かわせ、さらに予期不安が減少するという好循環をもたらしたのです。一種のロゴセラピー様の結果を招いたともいえるでしょう。

もちろん、これはすべての人に当てはまるわけではありません。内向的で物事にこだわる人は、物理的な効果期間がなくなると再び汗がでて、もう一度注射が必要となります。しかし、それでも前回より少ない量で同じ減汗効果が得られるようです。

また、これまで報告されていた腕の重量感やしびれ等の症状についても、注射の量と注射部位によりかなり改善されることがわかりました。皮下ではなく皮膚真皮下層に注入することで、より少ない量で大きい効果が期待できます。

ボトックスの効果と症状は、人により非常に異なるため、まず片方のワキで少量から始めて、効果と症状を十分観察してから、両腕に増量して行う、といった使用法の工夫が必要でしょう。

ボトックスのワキガへの効果
ボトックス治療は、初期の頃はエクリン腺の汗のみに効果あると言われ、実際に精神性発汗型多汗には非常に効果がありました。
その後、「ワキガ臭」に対しても、非常に効果的なことがわかってきたので、私のクリニックではボトックス治療を、精神性発汗だけでなく、ワキガの患者さんにも適応しています。

また、ボトックスは手術のまだ適応にならない思春期前の子供の「ワキガの治療」としても非常に有効なことがわかってきましたので、子供のワキガの治療にも使用しています。

ボトックス治療は、患者さん本人に対する安全性は確認されていますが、妊婦の胎児に対する安全性はまだ確立していませんので、半年先までに妊娠の可能性がある女性は、ボトックスの注射は避けて、出産してから治療を受けるのがよいでしょう。



五味常明 院長